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「シていい?」
「は、い」
隣から覗き込んで尋ねられた言葉に、俺は言葉尻を被せん勢いで頷いた。喉はカラカラで声は掠れているのに。これじゃあまるで期待していたのが、丸分かりだ。
「っは、顔。凄い真っ赤」
「っぅ」
肩に優雅君の手が置かれたと同時に、揶揄うような声が降ってくる。今の俺の酷い有様の顔も優雅君には丸見えだと思うと、更に目が合わせられなくなる。苦しい。どこもかしこも熱くて仕方ない
でも、頭はどこか冷静で早くしないと休憩時間が終わる、という事実が強烈に俺を突き動かした。
「ゆ、優雅君」
「ん?」
耳元で優雅君の優しい声がする。いつの間に、そんなに俺達は近付いていたのか。互いの体の僅かな隙間を湿った、蒸し暑い空気が淀む。互いの持ってきたコーヒーの合間に香る、コンクリートと地面の湿った匂いが妙に頭をジンとさせた。
「は、はやく。シたい」
あまりの恥ずかしさに、俺が優雅君の顔を見れないまま必死に告げると、次の瞬間、猛然と唇が塞がれていた。
「っふ、……んっ」
噛みつくように俺に吸い付いてくる彼の唇が、まさか先ほど優しく「ん?」と声を発していたのと同じモノと思えない。
恥ずかしさと気持ち良さで、思わずギュッと目を閉じる。最近分かった事だが、どうも俺は気持ち良くても涙が出るらしい。
「っん、っぅ」
「っは」
余りの気持ち良さに、ジワリと目尻から涙が流れるのを感じた。
背中は金平亭の外壁に押し付けられ、逃げる事も出来ないまま舌を捻じ込まれた。汗なのか、唾液なのか分からない液体が、口の横から微かに流れる。
くちゅと、粘膜同士が擦れ合う音が鼓膜をゆする。
「っぁ、っ、んん。っっはぅ、っふぁ」
「っは!くそっ!」
一瞬だけ口を離し悪態を吐かれたかと思うと、今度は角度を変えて舌を捻じ込まれた。肩を押さえつけてくる優雅君の掌の力強さが、必死に俺を求めている気持ちの表れのようで下腹部を熱くさせる。
「っぅ、ん」
いつの間にか片方の手が腰に回され、更に激しく舌をしゃぶられた。湿気と熱気が、互いの肌の境界線を更に曖昧にする。
きもちい。もう、ずっとこうしていたい。
「っん……ゆが、く」
「っは、なに」
「ひもちぃ」
「っ!」
まるで溺れるような快楽の波に体の芯を疼かせながら思ったままを口にする。その瞬間、再び、優雅君の吐息が俺の唇の熱く吹きかけられた。
あ、またキスされる。俺がジンと痺れる頭の片隅で、そんな事を思った時だった。
天井から、ぴちゃりと雨水が一滴落ちた。同時にハッとした。
あ、そろそろ休憩時間が終わる。
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