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別れ話
「すまない、深亜。……俺たちはもう、終わりにしよう」
久しぶりの同時間帯のシフト。明日は深亜の26歳になる誕生日だった。
榛人は同い年の幼なじみ。
深亜の転職を機に同じ職場に勤めるようになって早一年。それは、自分達が付き合った期間と、ほぼイコールだ。
「なん……で?」
言いながら、深亜はその整った顔立ちを見上げる。
チタンフレームの眼鏡のブリッジを押し上げ、榛人は溜息をついた。手にしたスマホの画面を見せてくる。
「玲音が死んだ」
「やっ……嘘っ」
続けざまの衝撃に、深亜は悲鳴に似た声をあげる。眼は、画面に釘付けとなった。
『先に逝くね。幸せになる君達をこれ以上見てられない。ゴメン』
玲音は昔から、嘘と本音、タチの悪い冗談を織り交ぜる癖があった。今回も、その可能性はある。
「こんなの……冗談かもしれないじゃない!」
信じたくない思いでデスクから立ち上がる深亜の前で、榛人がスーツの内ポケットの中へ手を入れた。
差し出される、銀色の懐中時計。
「受け取ってくれ。……じきに、思いだすはずだ」
何をと問いかける間もなく押しつけられた時計を、仕方なしに手にした──次の、瞬間。
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