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そうして、初めてのやり直し人生で、深亜は玲音とは付き合わず、榛人と付き合うこととなった。
玲音と違い榛人は、解りやすく愛情を向けてきたり、甘い言葉をささやくことはなかった。
けれども、さりげない優しさで後から深亜が気づくような愛情をくれるのが、榛人だった。
「もうじき、誕生日だな」
「うん。……一緒に過ごせそう?」
「ああ。急ぎの修理品もないし──」
基本的に時計修理を断ることがないせいか、榛人の休みは、あってないようなことが多かった。
だから、深亜は仕事中に一緒にいられるだけでも良かったのだが、そうは言っても誕生日くらいは特別な時間を過ごしたいとも思っていた。
豪華なディナーや夜景が綺麗なスポットなどには興味はないが、普段と『ちょっとだけ違う』過ごし方はしたい。そんなささやかな願いを抱いていた。
しかし──。
いつも無表情に近い榛人が微笑みながら何かを言いかけた瞬間、深亜のスマホが鳴った。画面を見れば、玲音からだ。
「玲音……?」
なんとなく嫌な予感を覚えながら榛人を見ると、無表情に戻った彼に無言でうながされ、深亜は緊張しつつ電話に出る。
「深亜ちゃん? あの、あの……ごめんなさいね。私、玲音の母親だけど──」
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