最初の人生

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最初の人生

「これ、処分品?」 「ああ。捨ててくれってさ」 深亜の勤める時計店では販売だけでなく修理も行う。 売買の流通経路がネット中心の昨今は、街のしがない時計店では、販売よりも修理に力を入れているのだ。 25歳の転職。延々とデータ入力をしていた前職よりは気ままな仕事場。 現に今も、お茶を飲みながら榛人が時計の修理を行ってるのを横目で見ていられるくらいだ。 処分品の箱に入れられた時計は、深亜のような職人でない人間にも出来る、電池交換のための練習素材となる。 一年近く勤めた今はよほどの時計でない限り、電池交換やバンドの交換は楽にこなせるようになっていた。 深亜が箱から取り上げたのは、銀色の懐中時計だった。 外蓋の細工が華奢(きゃしゃ)で彼女の好みに合う。 「電池入れたら動くかな?」 「ムーヴに問題なければいけるだろ」 「じゃ、後でやってみるね」 お茶飲み休憩終わり、と、立ち上がりかけた時、深亜のスマホが鳴った。 「……玲音か?」 「うん」 「客もいないし、少し早いが上がっていいぞ」
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