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(交通事故って……)
誰もいない時計店の作業室。デスクが二つと休憩用の小テーブルが置かれた、こじんまりとしたスペース。
最後に榛人と過ごした時間を想うように、深亜はそこにいた。
突然の息子と弟の死に、家族経営の店は一週間閉めることとなった。その間の電話対応を、深亜は自らかって出た。
(榛人がもうこの世にいないなんて、嘘みたい)
通夜も葬式も出たが、死に顔は見ていない。
遺体の損傷具合から対面のない出棺となったのだ。粛粛と行われた家族葬に、榛人との付き合いの長さから、玲音と共に参加させてもらえたくらいだ。
静まり返った室内。時折かかってくるだろう電話も、ここでなら取れる。
そう思って、メモ用紙を取ろうと、自分専用の引き出しを開けた──が。
「……っ……」
そこに、懐中時計が入っていた。『深亜へ。直しておいた』という、素っ気ないメモ書きと共に。
あの日、深亜が試しに電池を入れてみようとしていたものだ。
「なん、で……?」
手が、震える。銀色の懐中時計は、まだ、動いてはいない。電池作動式でなく、機械式だったのだ。
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