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小刻みに震える手でネジを巻こうとしたが、思うように力が入らず、深亜は時計を取り落としてしまう。
「ヤダ……!」
せっかく、榛人が直してくれたのに。
時計は衝撃に弱い。跪いて時計に触れて、埃をぬぐうように手に取れば、知らず涙がこぼれた。
──初めて、実感した。
もう、榛人はここには来ない。来られない。二度と、時計を修理することもない。
「お願い、動いて……!」
今度こそ慎重に、ネジを巻く。
巻きながら、深亜は思った。
もし、あの時、自分が帰らずにいたら?
もし、榛人がこの時計の修理をせずにいたら?
もし、玲音と付き合っていなかったら?
──榛人は、死なずに済んだのかも知れない……。
涙で視界がにじむ。嗚咽が、喉をついた。
泣きながらネジを巻き終えた、直後。コチコチという規則正しい振動が手に伝わり、深亜は片手で目をこすって盤面を確認した。
「え……」
すべての指針が、左周りに動いていた。しかも、見つめていくうちに、早回しの逆回転まで始まった。
「なにこれ……壊れちゃっ……」
落下の衝撃による故障かという思いが過った瞬間、辺りの景色がぐにゃりとゆがみ、深亜の意識は、そこで途切れた。
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