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③本篇あり 永遠に近い命を持つ受と、彼を愛したために永劫を求めた攻のお話
永遠に近い命を持つ受。
小さな城下町の魔道具店で役立つ薬を作り、一人静かに暮らしている。次第に周りは顔見知りばかりになるから、年を取らぬことがばれてしまう。そのため何十年かに一度、街ごと人々の記憶から自分を消し去っている。ちょっぴり寂しいけれど仕方がないことだ。
でもある時、最愛の恋人ができた。彼は街を守る護衛兵団の副団長だ。日々は薔薇色、彼との逢瀬が常に待ち遠しい。 「このままずっとお前と一緒にいたい」 抱きしめられ愛を囁かれながら二人で朝焼けを眺めた。 それは受けにとって一人ぼっちで見上げてきたどの空より、切なくなるほど美しい曙だった。
幸福な数年が経ち、年を取らぬ受にとって、また街の人々の記憶を消さねばならぬ時期に来た。
だが今回は失いたくない恋人がいる。受は迷った。
(どうしても彼の記憶は消したくない。ずっと忘れないで欲しい)
切なる願い。だが永遠に近い命を持つ自分と限りある命を持つ彼とでは生きている時間が違う
今まで受は必要最低限しか人と関わらずに生きていこうとも思っていた。
助けを求めて店にやってきた人がいたらまたその人たちと仲良くなればいいだけ、それも楽しみだと前向きに考えようとしていた。
それは最愛の人を失ったことがなかったからだと気づいた。
だが攻は領主の一族。遠くは王族にも繋がる高貴な、見の上だった。受とは所詮結ばれぬ相手。王とでの縁談も持ち上がっていると街の噂で聞いた。彼が自分を忘れても別の幸せを掴んでくれるなら、それでいいと思った。胸が張り裂けそうな哀しみに耐え、彼が街を離れている間に、忘却の魔法を発動させた
その後、何も考えたくないと働き通しできた。流石に疲れて明日は休もうと決めたが、これから一人で過ごす夜が酷く長くつまらなく侘しい。
気晴らしに出かけた先は、未練がましく攻と訪れたことのある店の前ばかり。彼と同じ制服の者を見るたび、胸が焦がれる。
案の定、彼の部下たちに誘われて同席しているところに、攻がやってきてしまった。しかも酔って立ち行かぬ状態の受を、攻が自ら家まで受を送ってくれた。
受の頭の中に、(あいつは俺を覚えていない。じゃあまた『はじめから』始めればいいのか?)とそんな浅ましい考えがふと頭をよぎる。
しかしあれだけ悩みぬいて彼を手放したのじゃないかと、慌てて否定する。
(どうしたらいいのか、分からない。でも、彼を返したくない)
棚に並べてある色とりどりに並ぶ小瓶の奥に、濃い薔薇色の瓶が目に付いた。
「媚薬……」
しかし彼がそれを口に運ぶ寸前のところで受は攻の手を掴んで止めた。
「飲まないで!」
慌てふためく彼の様子に攻が警戒を強め、びりびりとした空気を感じる。領地を守る兵団の要職に男だ。受はそこに込められた別の意味合いに気がついて顔色を変えた。
「ち、違う。毒ではないから」
「じゃあ何がはいっているんだ?」
「……」
いえる訳ない。
「言いたくないのか? じゃあ試すか」
攻は盃に口をつけると、そのまま受の唇に自分のそれを押し付けた。
受の喉元に熱い液体がなんの抵抗もなく落ちていく。足元で盃が割れ粉々に砕ける音がした。そのまま長椅子の上に押し倒され、受は激しく唇を貪られる。逆に媚薬を盛られ、彼に思うさま乱され、
受は涙ながらに「優しくして」と懇願する。すると彼が声を荒げた。
「俺だけだって言え。俺を捨てようとして悪かったって、愛しているのは俺だけだって、お前のこの、唇から」
信じられない言葉に、受は耳を疑った。
(記憶が……。どうして)
攻は受の秘密に気が付いていた。
未来永劫、彼を自分のものにするにはどうすればいいのか。その方法を探すために町を出ていたのだ。
実は幼い頃に彼であっていた記憶すら、ある奇跡から消えておらず、再会を待ち望んで生きてきたのだ。
思いが通じ合ったのちの、朝焼け。二人はそのまま空の色がゆっくり透き通った青に移ろうのを、
二人は満ち足りた気持ちのまま飽かず眺めた。
おわり✨
過去に書いた永遠に近い命を持つ受と、彼を愛したために永劫を求めた攻のお話です。
二人、それぞれの秘密をご覧いただけたら幸いです。
☆本編は「忘れられない、人がいた」にございます。
https://estar.jp/novels/26000642
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