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茉右子が寺の入り口に着くと、石垣にフォックスが座っているのが見えた。
彼は茉右子に気が付くと、すぐ駆け寄って強いハグをしてきた。長身の彼に抱きあげられて、茉右子はつま先立ちとなる。返信しつづけた無表情な連絡たちを一瞬に飛び越えて、愛情を伝えられるのだから、この異国の習慣はずるい。茉右子は吐息を漏らした。
彼女からひとしきり、英語の試験で高得点を取れた話を聞いた後、フォックスは口を開く。
「帰国したら日本の企業に就職できるように、今度は僕が頑張る。僕は今、大学二年生だから二年間だけ待って。必ずアイルランドから、この国に戻ってくる」
そうして二人は恋の成就を願って、寺でダルマを買った。
次に出会って願いが叶うとき、両目を塗ろう。そう言ってフォックスに片目を描かれたダルマ。
それが今、帰ってきたのだ。
***
蕎麦屋でフォックスがポケットの中から出したダルマを、茉右子は受け取る。用意周到に彼が用意したマジックペンで右目を塗った。ダルマの両目は不格好で、綺麗な黒目を描かれたとはいえない。
でも、嬉しそうな表情をしている。二人にはそう思えた。
〈 了 〉
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