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序章
火薬の匂いが鼻を刺し、目が覚める。
固い地面の感触が頬に残るのを覚えながら、私は徐ろに身体を起こす。はっと息が止まった。周囲に広がっていたのは目も当てられない程の惨状。自分の見知った町が瓦礫や廃墟で構成された地獄と化し、アスファルトの剥がれた道路の端には白骨化した死体が幾つも転がっていた。
吐き気が湧き上がるのを何とか堪える。
思い出した。気を失う直前の悪夢のような光景。用事があって町へ繰り出した道中、海の向こうで空から赤い光の玉が落ちてきて、どん、と衝撃が走ったのだ。
一瞬のうちに赤に染まる世界と凄まじい熱風。偶然にも私は建物の影と重なっていたから一命を取り留めたけど、見たところ周囲の被害は尋常じゃないらしい。人も、自然も、建物も、全部瞬く間に吹き飛ばされてしまった。
不意に、頭の片隅に残っていた記憶の欠片がきらりと光る。はっと我に返り、恐る恐る肩掛け鞄の中を確認する。中身は、どうやら無事みたいだ。思わず安堵の息が漏れる。
……行かなくちゃ。
そう自分に言い聞かせて、その場に立ち上がる。身体の節々が痛い。爆風の影響か服も所々破れている。けどそんなこと気にしている場合じゃない。私にはやらなくちゃならないことがあるのだから。
立ち眩みで意識が揺らいだのを、鞄の紐をぎゅっと掴んで何とか持ち直す。ふと海岸の方へ目を向ける。そこには空を覆い尽くす程の巨大な円盤が、まるでこの惑星を丸ごと吞み込まんと鎮座していた。
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