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  ◇  目的地に辿り着いた頃には、もはや肺が破裂する寸前だった。  坂道を登った先にある平原。石碑が設置された入口の向こうは、夏になれば黒百合の群れが咲き誇り、崖際に進めば冬風に煽られた大海原が広がっている。傷跡は残っているものの、この辺りはまだ無事だったらしい。  鞄の紐をぎゅっと握りしめ舗装された遊歩道をゆっくり進む。耳をすませば未だに砲撃の音が海から木霊し、最後に此処を訪れた時の蜜の匂いはすっかり土埃でかき消されていた。  もうすぐ、着くからね。  鞄の胴を優しく摩りながら、心の中で念じるように呟いた。もう片方の手には、此処に着いた時に中から取り出していた白百合の花束。このご時世だから、惜しいことに造花しか用意できなかった。  まあ、この花束はおまけみたいなものだし、許してもらえるよね。  自嘲を込めて一人で笑いながらも、花束を持つ力は段々と強くなる。  涙を流すには尚早だし、そもそも私にその資格は微塵も無かった。
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