保護

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 朝日が家々の窓からぬるりと入り、日向が勝手に床で寛いでいるような、ある昼下がり。  爺ちゃんは、また行方不明になった。  行方不明になるのは、これで何回目だろう……。片手で数える事を越してから早々に辞めてしまったから、正確に知る術はもうない。  僕は、今起こっているこの惨状には、もう慣れていた。  母と婆ちゃんが取り乱して、警察や市役所に電話を掛ける。  数分経ったら警察が取り調べに家に来る。  その後、市内に行方不明者である爺ちゃんの名前と特徴が流れる。  いつの間に連絡したのか、爺ちゃんの息子である父が、仕事を早退して帰ってくる。  落ち着かない空気が家の中を漂うが、それは固定電話の音で真っ直ぐに貫かれる。  婆ちゃんが一目散に出て、食い気味に電話口に相槌を打つ。  両親が懸命に婆ちゃんを見守る。  婆ちゃんは暫く固い表情だったけど、徐々に顔を緩ませる。  それを見た絶望の淵に立たされたような両親の顔が、期待に満ち溢れた顔へと変わっていく。  そこで、婆ちゃんは電話相手—おそらく警察官—の耳を破壊する勢いの歓声に近い叫び声を上げる。 「見つかったんですね!」  これが、爺ちゃんが行方不明になった時の一連の行動だ。父が出張で早退できない時があったり、市内で放送が流れる前に警察が爺ちゃんを見つけてくれたり等の差異はあれど、大体の流れはあまり変化がない。それは、僕が高校生に上がった今でも、変わらない。  だけど、もう爺ちゃんは帰って来ないかもしれない。  慌ただしくなった家の中に背を向くように、俺の一回り大きな窓辺に立って、光を浴びる。この光は、仄暗い気持ちを、浄化してくれないだろうか。そんな期待を込めてずっと浴び続けても、ただ皮膚の熱が高くなるまま。それ以外、何も変わらない。  爺ちゃん、ごめんね……。  心の中で浮かんだ謝罪は、柔らかな光に照り付けられて、当てられた所から薄く色が変わっていった。
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