未知からのスカウト

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未知からのスカウト

 今から、ひと月くらい前になるだろうか。  薄汚れた狭い路地裏に転がり、俺は血塗れで雨に打たれていた。天国を味わうクスリや偽りの色恋を売る、華やかな都会のヤバい界隈。ほんの一握りの成功者以外は、金も命も使い捨てにされるのが日常茶飯事で、俺のようなチンピラ風情が命の灯を消そうと誰も見向きもしないだろう。  畜生……このまま、死にたかねぇっ!  未練を吐き捨てようにも、もうヒューヒューと掠れた虫の息で、声にならない。仕事柄、恨みも妬みも……心当たりは、この街のネオンの数くらいごっそりとある。俺だって、こんなことになるなら、殺しておきたい輩の10や20はいる。ああ、今からでもソイツらをメッタ刺しにしてやりたい。殺して、犯して、奪って……もっともっと叶えたい欲望があったのに。 「じゃあ……ワタシのために、働いてくれるか?」  ……は?  突如眩い光が広がり、視界がトンだ。女か男か判別のつかない金属みたいな高音が、耳の奥にキンと響く。二日酔いのようにこめかみがキリリと引き攣った。 「オマエのような……男を探していたのだ。ワタシのために働くのなら、その命助けてやろう」  なんだって? 俺のような……男?  眩しさに目が慣れてくると、光る人型の物体が宙空に浮いているのが見えた。滝のような雨が落ちているはずなのに、光が照らしているこの周辺だけが濡れていない。  アンタ……神様か、宇宙人なのか? 「違う。だが、オマエより高位の存在だ」  光が嗤った気がした。表情も目鼻立ちも見えないのに、確かに――。 「ゴフッ!」  喉の奥から熱いものが込み上げ、赤い液体が溢れ出した。ヤベぇ……頭がクラクラする。  アンタがなんだっていい……アンタの言うことも聞いてやる……俺は、まだ、死にたくねぇんだっ!! 「良かろう……では、行くぞ!」  光が一層強く瞬いた――その瞬間、あっちの世界での俺は死んだ(きえた)
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