特殊魔法

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特殊魔法

「……ふぅ。この世界の煙草はマズいな」  裸の上にガウンだけを羽織り、窓辺で一服する。部屋の片隅には、立派な天蓋付きのベッドがあり、その中に横たわる白い背中が見える。なにも知らない清らかな王女を滅茶苦茶に抱いた。彼女の意識がトンでも、俺の精が果てるまで何度も、何度も。元の世界でも散々女を抱いたけれども、大抵手垢の付いたの商売女ばかりだった。とはいえ、恋だの愛だの生温い感情が要らない、単純に欲を吐き出すだけの関係は俺の性に合っていた。  窓の外に目を転じる。祝いの宴に沸いた王城も、最低限の灯りを残して眠りに就いている。まだ夜は明けきらない。藍色の空の端に引っかかった紅い半月が、ニタニタ薄ら笑いを浮かべているようだ。 『ヴィーノくぅん……』  不意に、あおいくんの声が聞こえた。姿を現さず、俺の頭に直接届く声――これは彼が使う特殊魔法(テレパシー)の一種らしい。 『お姫様は満足出来たかい、ヴィーノくん?』  ケッ。下世話なこと訊いてくるんじゃねぇよ。 『フフフー。それで……どうなの?』  まだだ。今夜は楽しめた。だが、俺の欲望はこんなもんじゃねぇ。ありったけの美女を侍らせて、ありったけの財宝を手に入れて、ありとあらゆる権力で跪かせて、この世界の全てを支配してやる。 『フフフー。いいね、いいね、それでこそヴィーノくんだ!』  さてと……朝まで時間がある。もう一戦かますから、覗き見してんじゃねぇぞ! 『お昼には、ここを発つよ。王様は、このままこの国に君を抱え込むつもりだ』  だろうな。そうはいくかよ。貰うモン貰ったら、こんな国にゃ用はねぇんだからな。 『うん。寝坊しないでよ!』 「ククッ。分かってるって、相棒」  窓枠の金具に、短くなった煙草を押しつける。頭の中から声が消えたのを確認して、俺はベッドに向かうとガウンを脱ぎ捨てた。  あの光る存在にひとつ感謝しなきゃならないのは、俺をこの異世界に連れて来たとき、単に命を救っただけでなく、身体を10代後半から20代前半に若返らせてくれたことだ。お陰で体力は無尽蔵。有難いことだぜ。
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