敵は北の地にあり

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敵は北の地にあり

 あおいくんがポケットから出すマジカルアイテムを駆使して、俺は名だたるモンスターを次々に倒し、幾つもの王国を権力下に置いた。政治なんて面倒なモンは御免だから、統治権は元々の王族に譲ったが、どこの国でも俺が望めば金でも女でも恭しく献上される。この数日滞在しているビアンコ皇国でも、“純潔の聖女”と崇拝されている無垢な美女が、俺の視線ひとつで呆気なく夜伽に差し出された。 「つまんねぇな。もっと俺を燃えたぎらせる敵はいねぇのかよ」  今や、大魔法使いヴィーノ・ヴィータ様に刃向かおうなんて馬鹿な考えを持つヤツはいない。光る存在に呼ばれて数年で、俺はこの異世界を掌握しようとしていた。 「そうだね……そろそろ、邪魔になってくる種族がいるよ」 「ほう。まだそんな命知らずがいるのかい、あおいくん?」  聖女の豊満な胸を撫でながら、美酒を煽る。相棒に視線を送ると、彼は大好物の“ラーキ”という甘い豆のペーストをパンケーキで挟んだ食べ物を頬張っている。 「フフフー。大陸を離れた北の孤島に、恐ろしく長命でプライドの高い一族がいる」 「……ほう」  プライドが高い……か。気に食わねぇな。 「エルフ、って聞いたことあるかい?」  彼のクリクリとした大きな瞳が、意味深に俺をチラ見する。 「エルフ……」  呟くと、しなだれていた聖女がビクリと反応した。 「なんだ、お前も知っているのか」 「はい……とても恐ろしい種族です……逆らうと、国が滅びます……」  虚ろな目で快感に溺れていた彼女は、身を震わせ、蚊の鳴くような声で応えた。 「ほほう。そりゃあ、面白そうだ」  確か、元いた現実世界のファンタジーでは、精霊に近しい存在で「賢者」なんて言われていた覚えがあるのだが。この異世界のエルフは、人間に害なす敵なのか? 「お前、なかなか物知りだな。褒美をやろう」  俺は盃の酒を飲み干すと、聖女を抱えて奥のベッドに向かった。 「フフフー。ヴィーノくんも好きだねぇ」 「見世物じゃねぇぞ、あおいくん」 「フフフー」  彼は両手にラーキを持って、ムシャムシャ食べている。花より団子の彼は、女にはまるで興味を示さない。俺としても、今更見られようが聞かれようが……羞恥心なんて欠片もねぇんだけどな。
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