エルフの里

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エルフの里

 ビアンコ皇国を出て半日、最果ての岬から北の海を臨む。眼下では、鉛色のうねりが荒々しく岩肌を叩いている。 「エルフっていうのはね、誰にも屈しない孤高の種族だって公言して、わざわざ大陸から遠く離れた北の大島に移り住んで、こっちの世界を眺めているんだ」 「ケッ。気に食わねぇな」 「うん。とっても生意気なんだよ」  あおいくんは苦々しく吐き捨てた。 「で? ヤツらの所まで、どうやって行く? いつもの扉か?」 「ううん。エルフは、あの扉の空間干渉を防ぐ魔法を島中に施しているからダメなんだ」  彼はポケットをゴソゴソ探ると、片側にプロペラの付いたT字型のアイテムを2つ取り出し、その1つを寄こした。 「これを頭に着けて……1、2の3っ!」  地面を蹴り出すと、彼の身体は高く舞い上がった。その頭上でプロペラが音もなく回転している。 「面白い!」  俺も同じようにアイテムを装着して蹴り出した。フワリと身体が宙に舞い上がり、岬がどんどん小さくなる。あっという間にあおいくんを追い抜いたものの、勢いは止まらず、更に上昇し続ける。 「お、おい、あおいくん!?」 「フフフー。行きたい方向を念じてー。そうそう! やっぱり、ヴィーノくんはアイテムを使いこなすのが上手いなぁ」  適度な高度を保つと、俺達は真っ直ぐ北へ向かった。地平線を背後に、水平線を越える。数時間で新しい戦いの舞台が見えてきた。 「あの中央の山の麓に広がる森が、エルフの里だよ!」 「クククッ。すぐに灰にしてやるさ。ところで、エルフの女ってのは美人なのかい?」 「フフフー。子どもから大人まで、絶品だよ」  あおいくんは、ニヤリと笑んでウィンクした。  彼の言葉に嘘はなかった。エルフは、これまで異世界で出会ったどの人種、どの種族よりも美しく、それは性別すら超越していた。どいつもこいつも殺してしまうには惜しいクールビューティーで、いっそのこと片っ端から味見してやろうかとさえ、欲望が昂ぶった。  だが、俺の邪念はすぐに砕かれた。ヤツらは驚くほど魔法に長けて強かったのだ。上空からの火炎攻撃は悉く防がれ、不意を突く作戦は儚く頓挫した。地上から、無数の光の矢が俺達に向かって射かけられる。 「ヴィーノくんっ!」  あおいくんが、ポケットから赤いマントを引っ張り出して、俺に手渡そうとした。あれは、どんな攻撃をもかわすことができるマジカルアイテムだ。 「ヤベぇっ!」  マントを受け取ろうと手を伸ばし――体勢が崩れた。そこへエルフの放った光の矢が俺の腕を掠め、頭上のプロペラに命中した。弾かれたアイテムは空の彼方に消え、俺は真っ逆さまに地上へ落ちる。 「ヴィーノくぅーん……!!」  あおいくんの叫びが、姿が小さくなる。落下する身体を、幾本もの光の矢が容赦なく貫いた。  なんだ……こっちの世界でも、死ぬときは呆気ねぇもんだぜ……。  バキバキと派手な音と共に舞い散る枝葉。俺は梢から一気に地面に叩きつけられた。既に意識は混濁して痛覚すらない。 『お前か……哀れな……』  白い長髪に尖った長耳、紫色のアーモンドアイが朧気に見えた……気が、した――。
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