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「やーれやれ。いっつもエルフのところでつまづくんだよなぁ。もうヴィーノくんじゃ勝てないかもなぁ」
明け透けにボヤキながら、彼が近づいてくる。
「うぅ……っ」
「ヴィーノくん? 目が覚めたのかい?」
ベッドサイドに立つ彼は、少しも他意を感じさせない心配顔で、俺を覗き込んだ。
「ここは、どこだ……あおいくん……」
「ビアンコ皇国の宿屋だよ。君がエルフの返り討ちにあったから、海辺の街まで戻ってきたんだ」
「そうか……世話かけたな。力を蓄えたら、絶対にリベンジするぞ」
「フフフー。それでこそヴィーノくんだよ!」
「なにか……飲み物を貰えるか?」
「あ、うん。ちょっと待ってて……」
あおいくんは、クルリと踵を返した。丸いシルエットがベッドを離れ、完全に俺が死角に入る。今だ! 俺は渾身の力を込めて、背後から飛びかかった。
「うわっ、な、なにするの、ヴィーノく……」
「るせぇ! テメェらの捨て駒になんか、なってたまるかよ!」
「やめっ……ご、誤解だよぅ……う、ああぁぁ……――」
あおいくんが俺に使ったマジカルアイテムの風呂敷。コイツは、表面で覆えば対象物の時間を遡らせることが出来るが、裏面で覆えば対象物の時間を進めることが出来るシロモノだ。
「ギギィ……ギ、ギ……」
裏面で覆われたあおいくんは、錆びた自転車みたいな機械音を立てながら、風呂敷の下で動かなくなった。それでもしばらくの間、俺は風呂敷を外せなかった。
「……ふぅ。これで“大魔法使いヴィーノ・ヴィータ様”も廃業だな」
マジカルアイテムを提供してくれる相棒が消えた今、俺は単なる異世界人だ。チート能力なんぞ、なんにもありゃしねぇ。バレねぇうちに、とっととズラかるか。
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