大魔法使いヴィーノ・ヴィータ

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大魔法使いヴィーノ・ヴィータ

「クッ、クッ、クッ……チョロいもんだ」  俺の目の前には、コウモリのような羽をバタつかせて、鞭のような長い尾をビチビチうねらせている黒い龍がいる。  ほんの数秒前までは、山を砕く咆哮(ブレス)と森を焼き尽くす紫の炎を吐く恐るべきモンスターだった。  俺が元いた現実世界のゲームや、異世界モノのファンタジー世界では、ステージを締め括るSSSクラスのボスに匹敵するだろう。 「おーい、ヴィーノくーん!」 「おう、あおいくん。ここだ!」  背後の大きな岩陰から、トテトテと駆けてくる丸っこいダルマのようなシルエット。あおいくんは、俺の胸までしか身長がない。彼は、俺が摘まみ上げた元黒龍を見上げて、ニッコリと笑った。 「鳥籠出してくれるかい」 「うん。その前に……」  彼は意味ありげに、俺の右手へと視線を送る。 「お、悪い悪い。今回も助かったよ、サンキュ」 「フフフ。ヴィーノくんのチョイスが的確なのさ」  懐中電灯のようなマジカルアイテムを返却すると、あおいくんは腹の辺りにある大きな半月型のポケットの中に収納した。俺が黒龍に勝てたのは、このアイテムのお陰だ。「小」のメモリに合わせてスイッチを押し、このアイテムが発する光で照らすと対象物はグングン縮む。大山ほどに巨大だった黒龍も然り。光を浴びると、あっという間に縮んで、今や手のひらサイズの小トカゲになった。  あおいくんはグインと伸びたポケットの中から、ミスリル鋼製の鳥籠を取り出してくれた。 「ほら、お前はここに入ってろ」  グルル……と威嚇染みた声を上げ、黒龍は最後の抵抗とばかりに小さな炎をポコリと吐き出す。 「アチッ。チッ、殺すぞ、コラ!」 「ダメだよう、ヴィーノくん。王様のところに持ち帰るって約束なんだろ?」 「あー、分かってるって。代わりに大切な王女様をくれるって約束だもんな!」  クククッと喉の奥で嗤う。  この黒龍に領土を荒らされ、領民を喰われて、ホトホト困り果てたジーコフ王国の国王は、藁にも縋る思いで旅の途中の魔法使い――この俺様(ヴィーノ・ヴィータ)に黒龍討伐を依頼してきたのだ。褒美は大量の金品と国王の一人娘、今年17になる王女。国王に似ず色白の美人で、心身共に清らかな生娘(おとめ)だ。 「今夜は楽しめそうだぜ」 「フフフ。じゃ、帰ろうか?」  あおいくんは、再び腹のポケットに両手を突っ込むと、ゴソゴソ探したのち、巨大なピンク色の扉を取り出した。転移門の働きを持つこのマジカルアイテムは、行きたい場所を念じて扉を開けば、目的地がそこにある。本当に便利なチートアイテムだ。  俺達は、扉を潜り抜ける。100mほど先に、王城の正門が見えた。 「おおっ、あれを見ろっ!」 「ヴィーノ・ヴィータ様だぁ!」 「おい、あの籠の中を見てみろ!」 「ドラグーンだ! 恐ろしいダーク・ドラグーンだ!」 「万歳! 流石は大魔法使い様だ!!」  門番の衛兵達が次々にこちらを指差し、大袈裟に歓声を上げる。正門に着く頃には、俺達は大勢の兵士達の拍手喝采を浴びていた。
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