橋の上で

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 和風な橋の上。真っ赤に塗装された欄干にもたれ掛かりながら、川の流れに視線を預けて、言葉を溢す。 「皆、俺の事を忘れたのかよ……」  絶望した様子でポケットの中をまさぐる男。  震える手で何かを取り出した男の掌には大層な紋章が描かれた一枚の布切れと幸せそうに写る家族写真。 「命を懸けて戦った結果が“これ”かよ……ふざけんなッ!!」  感情のまま手摺りを殴る男は国の為に戦っていた兵士だった。  “国の為だ”と何度も自分に言い聞かせては理不尽を呑み込み、何も考えず前を向いては銃口と視線を前に突き出して、戦場を駆け回った。 「ようやく終わったってのに」  終戦。故郷に帰ってきた男は包帯にくるまれつつも五体満足で何とか生還。  しかし、暮らす住民は誰一人として男の事を覚えていなかった。それは家族さえも。 「クソッ!クソッ!」  何度も手摺りを殴る男の拳には血が滲む。  話し掛けても何の応答もない住民と自分など存在していなかったかのように暮らす家族の姿。 「もう用済みだってのか」  戦場で全てを失った男。  同じ釜の飯を食らった“仲間”も自分の愚行を止めようとする“理性”も……ただ、男に在ったのは故郷に帰りたいという純粋な気持ち。帰りを待つ家族の顔を見たい一心で戦った。 「うぅぅぅ!」  戦争を終えて、男に残ったのはポケットの中に入れていた家族写真と自分が戦ったという証のみ。  忘れ去られたという喪失感が込み上げてくる感情と共に手の甲を濡らす。 「うあぁぁぁぁあ!!!」  自分の存在に意味を見出だせず、男は川に向かって布切れを投げた。  風に乗せられた“それ”は川に落ちることなく、再び橋の方へと戻ってくる。 「自然すら俺を拒絶するのかよ」  項垂れ、そのまま身も投げようかと頭に過る。  その時だった── 『私は貴方を知っています』
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