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「こんにちは」
僕が引き戸から顔を出すと、
「おおいらっしゃい」
西さんが振り返った。
「具合どうですか?」
西さんは本を閉じて机に置く。
「大分調子が良いよ。まぁ君も座り……イタタ」
隣の椅子をすすめながら西さんが体を丸める。
「大丈夫ですか!?」
僕は慌てて駆け寄るも、
「腕立て腹筋背筋三百回ずつはやり過ぎたかなぁ」
西さんの言葉にズッコケそうになった。
「無茶し過ぎですよ!」
「いつも十セットやってるのを三セットに減らしたんだけどねぇ」
「結局ぜんぶ千回近くやってるじゃないですか」
「やはり筋肉は大事だからね。今の目標は旭岳を思わせる雄大な大胸筋さ」
「ボディビルダーでも目指してるんですか?」
「こうしてはいられない。腕立て伏せをするから、重しとして背中にのってくれないかい?」
「一回落ち着いてください!」
声を荒げる僕に西さんは笑った。
「冗談だよ。筋トレも執筆も無理なくが大事っていつも言ってるだろ?」
「もう驚かさないでくださいよ。まぁ西さんが元気ならそれでいいんですけど……ああそうだ」
僕は提げていた紙袋から植木鉢を取り出した。ちんまりとした双葉が一つ、土から顔を出している。
「可愛らしいね。何の植物なんだい?」
西さんが身を乗り出す。
「『話に花を咲かせましょう!』という品種の植物なんです。こいつのそばで色んな話をすると、色とりどりの花が咲くんですよ」
「そりゃ面白い! 早速試してみようか」
「はい! そういえば僕と西さんが知り合ったのって去年なんですよね」
「そうだね。ぺいきち君が記念すべき五百人目のフォロワーさんで」
「お互いに単語を送りあって小説を書いたんですよね」
「そうそう! いやぁ楽しかったなぁ」
僕と西さんが盛り上がり始めると、
「あっ!」
「おやおや?」
鉢植えの真ん中で双葉が左右に揺れだした。メトロノームのような規則正しい動きが次第に大きくなっていく。双葉は茎を伸ばし、葉を茂らせ、色彩豊かな花を咲かせた。
「綺麗ですね!」
「これは見事だ!」
二人してはしゃいでいると、
「何それ面白い!」
「俺も混ぜてくれよ」
「抜け駆けはズルいわよ」
いつの間にか周りに人だかりができていた。
「この人達は?」
驚いて僕は訊ねた。
「フォロワーの方達だよ」
西さんは白い歯を見せる。
「じゃぁ皆で楽しもうか!」
「さんせーい!!」
西さんの言葉に歓声が上がる。
大輪の花が咲き乱れた。人々が思い思いに物語る。その中心で西さんはとびきりの笑顔を浮かべていた。
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