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歩道の横に住宅と魚屋のお店がある。
その立ち並ぶ間には僅かなスペースがあり、生臭い香りを漂わせたごみ捨て場がある。
このより激しさを増す天候の中で力尽きて消えた尊い命。
恐らくは魚屋のゴミになる切れ端の肉を求めて住宅と魚屋のスペースに身を置いたのだろう。
1匹の野良猫が世界の片隅でひっそりとその短い生涯に幕を閉じていた。
その野良猫は薄く瞼を開き、瞳を自身の腹部に向けて何かを伝えるように死後硬直が始まっていた。
その眼差しは「愛」と「不安」で白く濁っている。
その視線の先を追えば「愛」と「不安」を抱えた瞳の意味がわかる。
その野良猫の腹部では「温もり」を求めるように母のお腹に顔を埋めて懸命に鳴くとても小さくまだ目の開いていない子猫が1匹いた。
子猫は合わせて6匹いるが、残酷なことに母猫に顔を埋めて動いている子猫以外、残りの5匹の子猫は母猫と同様に事切れていた。
まだ母猫の姿さえ、5匹の自分の姉弟さえ、そして、自分がどこにいるのかさえ見ることの出来ない子猫は母猫の薄く開いた瞳の先で懸命に動き、懸命に命の声を、その母猫を呼ぶ言の葉を紡いで鳴いていた。
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