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第一話 第二の人生、開幕
「ふふふ〜ん」
私は気分良く、買ってきたばかりのハードにゲームをダウンロードしていた。
ゲームの名前は『サジタリウス』。
目下、オンラインMMORPGと呼ばれるジャンルのもので、自分で好きな性別、種族、体格、外見を作ることが出来るゲームであり、昨今の流行りものの一つだ。
その流行に乗り、私もこのゲームを開始することにした。
「う〜ん、キャラメイクか。よし！」
私が選んだのは、女……ではなく。
「やっぱり、どうせやるなら自分とは別の性別だよね〜！」
迷わず、男を選択した。
と言うのも、私は昔から某歌劇団の男役に憧れている上、一度は王子様になってみたかったからだ。
「かっこよくて美しい！ イケメンライフなんて最高じゃない！」
一人でニヤケながら、私はキャラメイクを続けて行く。
「種族は……エルフかな〜。イケメンだし！ 体格は……やっぱり高身長で、でも高すぎるのはイヤだから180cmくらい？ 細マッチョだけど肌はちょっと褐色系で、顔は勿論美形で、髪は金髪の……ハーフアップかなぁ。眼は……ふふふ、ファンタジーならオッドアイでしょ！ 左が……青で、右が……緑？ かな〜？」
独り、キャラの外見を決めると次は職業選択の画面に移った。
「え〜っと、色々あるなぁ。う〜ん、ここは流行りに乗って、主人公らしく双剣使いかな！ ……エルフで双剣ってどうなのかはわからないけど！」
こうして職業を決めた私は、最後にして難問である名前付けの画面に。
「どうしよう……。名前って難しいんだよね……。悩む〜！」
色々悩むこと数十分。やっと名前を思いついた。
「……イケメンだし、ゲームだし。せっかくなら好みの名前でもいいよね？」
そう覚悟を決めると、名前入力をしていく。
「『イグナート・アウストラリス』っと！」
こうして、ようやくキャラメイクにケリを着けた私は、意気込んでゲームの開始ボタンを押した瞬間だった。
「……え？」
突然意識が――遠のいたのだ。
＊＊＊＊
「あの、大丈夫ですか？」
可愛らしい女の子の声が響く。……ちょっと頭が痛い。
「ううん？」
だけど、私は重たい身体をゆっくりと起こす。
「……ここは？」
自分の部屋じゃない。それに、何か……揺れてない？
「ここは船の中ですよ。お兄さん、海で漂流してたんです！」
女の子の言葉で、自分の身体が冷えていることに気付くと同時に、違和感に気づいた。
女の子の背中に、羽根が生えていたのだ。
「えええ!?」
更に自分の出した声に驚く。
声低くない？ と言うか、身体つきが全体的にゴツイと言うか――。
「男じゃん!!」
つい大声を出してしまった私に驚く女の子。申し訳ないと思いながら辺りを見渡すと、どうやら小さな客室のようだった。
慌てて鏡を探し、洗面台に向かって小走りで近づく。そこに映っていたのは――。
「うっそ。『イグナート』じゃん……」
そう。私が先程までキャラメイクしていた、『イグナート・アウストラリス』そのものだったのだ。
「……はっ！」
思わず下腹部を触る。
「ついてる!?」
何がとは言えないが、確かに『男』の象徴があった。間違いない。
「うわぁ！ うわー！」
やや興奮気味な私に、女の子は戸惑いながら声をかける。その瞳は揺れていた。
「あの……お兄さん？ 大丈夫ですか？」
自分の変化に夢中すぎて羽根にしか目がいっていなかったが、女の子は十代くらいの栗色のセミロングの髪と瞳が特徴的な、白いフリルのワンピースを着た可愛らしい子っていうか、超美少女だった。
私はイケメンも好きだが、可愛らしい女の子も好きなのだ。
「あ〜、えっと。君が助けてくれたの？」
先程までの醜態を忘れ、私は女の子に向かってなるべく爽やかに言った。はずだ。
女の子は小さく首を振ると答えてくれた。
「ううん。ワタシじゃないよ。助けたのは船長さん。……元気そうだけど、風邪引いたら大変だから、温かい飲み物持ってくるね！」
女の子はそう言うと、部屋から出ていってしまった。残された私は、改めて自分の身体を確認する。
「すっご！ マジで男だし……しかも思った以上にイケメンだし……やっば！」
一通り興奮した後で、冷静になった私は重要なことに気づいた。
「……っていうか、これって……いわゆる『転生』ってヤツだよね……？」
《左様》
「そっか……じゃあ私、死んじゃったんだ……って、え!?」
――今、声聞こえなかった!?
私は慌てて周囲を確認するが、誰もいない。謎の声は頭に直接響いている感じがする。
《目覚めし『勇者』よ。貴殿には、これよりこの『サジタリウス』を救ってもらう》
謎の声はそれだけ伝えると、もう聞こえなくなってしまった。
「『勇者』？ 私が!?」
ちょっと、いや、かなりテンション上がる〜!!
などと、現実感がまだ無いからか、呑気にもそんなことを考えていた時だった。扉が開き、先程の女の子と……外見はおそらく『前世』の私と同じ人間の姿をした、黒髪碧眼に騎士のような格好をした超イケメンが居た。
「……目が覚めたようだな？」
冷たい視線を向けながら言うイケメンに、私は不覚にも……ときめいてしまった。そんな私の気も知らずに、イケメンのお兄さんは不審者を見るような鋭い視線で私を見てくる。
「その格好にその武器。見たところ、『双剣使い』のようだが？ エルフに双剣……だと？」
私の格好は、黒い半袖のTシャツに、黒いパンツにロングの白いブーツと言う、ちょっとダサめでいかにも『初心者』といった感じで正直ダサい。
「あはは。その、私、いや、僕？ 俺？ どうやら……」
言いにくそうにする私を見てイケメンお兄さんは何かを察したのか、右手で私を制止した。
「どうやら訳ありのようだな。……名前はわかるか？」
「えと、イグナート・アウストラリス……さ！」
そう名乗ると、イケメンは少だけ安堵の表情を浮かべて私に向き直る。
「そうか、イグナート。オレは『リュドヴィック・エアラ』だ。短い間だろうが……よろしく頼む」
イケメンお兄さんもとい、リュドヴィックさんはそれだけ言うと、私から視線を逸らし、女の子と内緒話をしだした。
しばらくして、リュドヴィックさんが部屋から出て行き、女の子が私に向かってこう言った。
「あのね！ イグナートさん、これから船は町に行くから、そこでお医者さんに診てもらってね！」
女の子は可愛いらしく微笑むと、バタバタと部屋から出ていく。それを見送ると、私は一息吐いてから気が付いた。
「って、これからどうすればいいの!?」
頭を抱え、オロオロするしかない。
かくして『私』、イグナート・アウストラリスの冒険が始まるのだった――。
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