触れられない存在

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触れられない存在

 =今日は絶好の時空晴天でしょう=  出勤前のニュースで望む言葉を聞いた俺は、期待しながら列車に乗り込んだ。  同じような表情の大勢の客を乗せた列車は、海沿いの路線を走りだす。  七時十五分になると、鐘のような音と共に空の一角が揺らぎだした。車内は静まり返り、乗客が片側に寄る。  やがて揺らぎが静まり鏡で(うつ)したような景色が(あらわ)れると、溜息にも似たどよめきが広がった。  こちらと、ほぼ同じ形の列車が見える。  未来と過去が交差する奇観だ。  でも、俺は時空のねじれよりも、車内に視線を()らす。  (いた!)  嬉しそうな表情から次第に不安げな雰囲気に変わる。
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