触れられない存在

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 フィルムを逆回転させているようだ。  彼女からも同じように見えているはず。  一週間に一度だけの逢瀬(おうせ)。  言葉を交わせず時間も共有できない俺と彼女がほんの五分、互いの姿を見る奇跡。  五分が過ぎると再び空は揺らぎ、(さざなみ)が広がり静まっていく。  驚くような光景は幻のようにかき消えて、青い空が戻ってくる。  毎日、この列車に乗るが、混雑するのは水曜日だけ。  今は真剣に見るが、以前の俺は時空絶景に興味はなかった。  通勤時間にも関わらず、絶景が(あらわ)れる前後三十分間、逆行時空とすれ違う列車以外は、水曜日は運休だ。  何かの事情でどちらが遅れても大丈夫なように、だと聞いた。  その、前後三十分間列車がないという事実が、俺と彼女を出会わせた。
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