飼う男

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朝、目を開けてあくびを一つ。 ふと部屋の見たワンルームの天井の隅っこに蜘蛛がいた。 目が合う。 奴は動かないし、俺も動けない。 どうするか? とりあえず目線を外さないまま起きる。 奴は動かない。 死んでる? そしたら安心だ。 一旦、奴から目を離してトイレに行き出勤の準備を始めた。 朝飯を食う。 簡単な朝飯だ、トースト2枚にコーヒーを一杯。 一人暮らしを始めた頃は、朝飯も食べていなかった。バターも塗らないトーストは味気なかったが社会人3年目の今は慣れたものだ。朝の忙しい時間に余裕を持っている証拠でもある。ありふれた吊るしのスーツも新入社員のころよりかなりくたびれてきた。それを着る人間も少しくたびれている。 蜘蛛に目をやると、蜘蛛がカサカサと少し動いた。たしかここに、ティッシュが、ポケットに手を伸ばしかける。いや、やっぱいいや。 「行ってきます」 蜘蛛に声をかけて出かけた。 ー21:40 最寄りの駅に着く。 帰りにコンビニに寄り、お決まりのおにぎりとサラダを買う。いつものコンビニの店員は、相変わらずやる気なさそうな若い金髪の男だ。 「あっした〜」 部活かよ、あー見えて運動部出身か?あの店員。 一瞬妄想に耽ると変な笑いが込み上げる。 口笛を吹きながら帰り道を歩く。 ふと思い出す。 奴はまだいるかな。 俺の帰りを待っているかな。 ポケットの中に手を入れてまた口笛を吹く。 月明かりが都会の孤独な男の姿を照らした。 終わり
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