2 幼女メモリー そのニ

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2 幼女メモリー そのニ

2 幼女のメモリー そのニ そして、今頃になって漸く漸く(ようやく)いつの間にか手にしていた湯呑みから、ガサガサに乾き切った唇を引き剥がして、幼女に向けて言葉を放った。 「嗚呼、それはね。通り雨というもんだよ。そ」 「わたしね。いまね。とーりあめって、いおうとしたの」 『おじいちゃん』の手に乗るはずだった蓬(よもぎ)団子言葉をもぎ取り、幼女が我先へと話を切り出す。子供独特の汗と足元の虹の破片となった泥が、空という何も遮らない虚空を、色鮮やかに煌めかせる。 「わたしね。しってたの」 それは、この幼女と何年間というの信頼関係を気付き上げたとしても、決して気付きもしない、謂わば小さな何かしらの予兆だった。 「しってたのん」 朝から日本酒を何瓶も空瓶にした男性と、比較しても判る通り、顔に赤みの刺身が貼りついていると勘違いを起こさせてしまう程、顔が赤みの刺身に変化し、上手く呂律が回っていない様子だ。 それでも、話し続けることをやめないらしい。
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