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「もう言い逃れは出来ません。認めてください、課長。不倫したと」
崖のすぐそこまで迫られた彼女の瞳は今までにないくらい動揺していた。
「そして、その徹底的な証拠は…指輪です」
「え?」
「課長は結婚をしてますよね? それは社内では有名ですものね。だって、本部長の奥様なんですから。なのに前、ある拍子で課長のスーツが落ちてしまったのと同時に指輪が落ちたんです」
どんどん青ざめていく課長は無言のまま、プロジェクトを見つめていた。それは本部長も同じ。だが、顔色は本部長の方が良いのは社員の勘違いだろうか。
「〝S・T〟と刻まれたゴールドリングでした。課長は名前は咲良、本部長の名前は紫苑。指輪に刻むのなら、お二人の名前ですよね? なのにイニシャルが違うんです、片方だけ。違和感を感じません?」
夕焼け色に染まった瞳が揺れるその目を覗き込む。これが自業自得ということか、と心の中で納得する夕風は問う。
その指輪は一体、何ですか?
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