苦痛

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***  数日後、散々言われたにも関わらず結局私達はあの資料を作り直していた。あのパワハラ課長のためではなく、部にとって有益な商談相手であったからである。 「あーあ、5色使えって無理だろ!」 「無茶だよね。でもそう言いながら完成したんでしょ? 蒼井」 「ああ。一応、人が印象に残りやすい色を使ったぞ。5色っていっても、まあメインは赤・青・黒だけど」  美術科のコースを卒業した蒼井が作成する資料は、他社でも評判が良かった。もちろん、今回の商談相手にも。 「ねえ、私思うんだけどこの会社と何かのプロジェクトを組むこと多くない? 我が社って」  ふと、頭によぎったことを口に出すと七瀬は悪い顔で口をとがらせながら笑う。 「もしかして、課長のお気に入りでもいるんじゃない? ほら! 商談に来た人も若くて爽やかなビジネスマン! って感じだったし」 「おい、七瀬。いくらなんでもヤバいだろ…」 「ミステリー小説の読みすぎじゃない?」  もうストレスに限界なのか、二人は日に日に捻くれたことばかりを言っていた。そんな様子を見かねた私はこんな提案をする。 「私が完成した資料届けようか?」 「え、マジ?」 「うん。蒼井、頑張ってくれたんだしそのお礼」 「ありがと~! 感謝します」  顔の前で手を合わせ蒼井は頭を下げた。私は「そんな大したことじゃないからさ」と言い、完成した例の資料を受け取って廊下に出た。
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