見覚えのある影

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見覚えのある影

 時刻は19時過ぎ。あの資料が完成してから少しは仕事の量も減り、定時で帰れる日も増えていた近頃。今日も仕事を終え、扉付近の入退社確認ボードを「退社」に変え、オフィスを後にしようとしていたとき、鈴音が胸元で響いた。  ロックを解除してメッセージ画面を開くと、そこにはもうすでに帰宅した妻からのメッセージが届いていた。    もうお仕事終わった? 気を付けて帰ってきてね。  あ、そういえば今日の夕飯はオムライスだよ!  結婚して2年目、明るく優しい妻のメッセージに思わず頬が緩んだ。早く家に帰りたい、そんな想いで足早に会社から退社した。  ロビーを通り抜け、近くの海辺を歩いて自宅へ向かう。夜の海は濃紺色で、幾つもの光が反射して白く細い光が散りばめらている。アスファルトの歩道をのんびり歩いていると、見覚えのあるコートを着た女性が目に入った。
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