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初めてのオトナの時間
大輝の車に、二人きり。大輝はステアリングを握りながら、楽しそうに鼻歌を唄っている。
私とは大違いな余裕のある笑顔が、ちょっとうらやましいと思う。私はこんなに緊張しているのに。
大輝が鼻歌を唄うのを辞めてしまったら、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「なーに固まってんの?」
赤信号で車を停めた大輝が言う。
「か、かか、固まってなんて!」
……固まっていたらしい。
どもってしまったことが恥ずかしくて俯くと、大輝はケラケラ笑ながら私の頬をツンツンと突いた。
「あはは、梓桜は本当高校生の頃から変わんねーな!」
「そ、そそ、そんなこと――!」
大輝と別れたあの日から、人並みに恋をして、人並みにいろんな経験をしてきたはずなのに。今年で30歳になるのに。
大人げないなあ、なんてため息を零し、そう言えば大輝は恋人がいたことがあるのかな、なんて気になって。
「むしろ大輝はどうしてそんなに余裕なの!?」
言えば、大輝はハハッと爽やかに笑う。
「俺にとってはいつもと一緒だからなー。むしろ今日は我慢しないで? 梓桜に触れていい日だろ?」
信号が青に変わる。
大輝がまた鼻歌を唄い出す。
私は大人げなく爆発しそうな心臓に、落ち着け落ち着け、大人なんだからと必死に言い聞かせた。
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