Prologue 運命の再会

1/2
前へ
/129ページ
次へ

Prologue 運命の再会

 澄み切った11月の青い空。  そこに映える、緑の芝。 「ママ! かーっこいい!」  抱っこした2歳の息子が指差すのは、真っ赤な消防ポンプ車だ。  私、塩沢(しおさわ)梓桜(あずさ)は住んでいる場所からほど近い、広い市民公園で開かれている市民まつりを訪れていた。  息子が大好きな、消防ポンプ車に乗車体験できるイベントがやっているからだ。  乗ることができるのは、ミニポンプ車。  一般的な消防ポンプ車より小さくて、屋根のない荷台の部分に座ることができる。  どうやらそこに乗って、記念撮影ができるらしい。  私は息子の颯麻(そうま)を抱っこしたまま、その列に並んでいた。  順番が来たら、子供サイズの防火服とヘルメットを着用して、消防士さんになりきれるのだ。  息子を立たせておくと我先にと前に行こうとするので、仕方なく抱っこしている。 「ポンプ車! ポンプ車!」  待ちきれずにポンプ車コールを発する息子は、腕の中でぴょんぴょんと跳ねる。  2歳とはいえ14キロにもなる息子が動き回ると、私の腰もさすがに悲鳴を上げる。 「ちょっと颯麻、大人しくして!」  すると、並んでいた列に消防士さんがやってきて、息子に消防自動車のシールを渡してくれた。 「ポンプ車知ってるのか! すごいなぁ!」 「シール! やったー!」  息子はまたぴょんぴょん跳ねる。 「ありがとうございます……」  苦笑いしながら、目の前の消防士さんにお礼を告げた。  ――のだけれど。 「あれ、……梓桜?」 「え?」  目が合う。  互いに逸らせずに、しばらく見つめ合う。 「梓桜、だよな?」  言いながら、彼は私をじっと見つめ続ける。  胸の中で、何かが疼いた。 「……大輝(だいき)?」 「ん、そう。久しぶりだな!」  ニカッと笑う、お日さまみたいな爽やかな笑顔。  整った鼻筋に、ちょっとだけあどけない、右頬のえくぼ。  それは、もう13年も経つのに、あの頃と変わらない。  大好きだった、初めての彼氏だったその人――佐岡(さおか)大輝――が、私の目の前にいた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1641人が本棚に入れています
本棚に追加