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Prologue 運命の再会
澄み切った11月の青い空。
そこに映える、緑の芝。
「ママ! かーっこいい!」
抱っこした2歳の息子が指差すのは、真っ赤な消防ポンプ車だ。
私、塩沢梓桜は住んでいる場所からほど近い、広い市民公園で開かれている市民まつりを訪れていた。
息子が大好きな、消防ポンプ車に乗車体験できるイベントがやっているからだ。
乗ることができるのは、ミニポンプ車。
一般的な消防ポンプ車より小さくて、屋根のない荷台の部分に座ることができる。
どうやらそこに乗って、記念撮影ができるらしい。
私は息子の颯麻を抱っこしたまま、その列に並んでいた。
順番が来たら、子供サイズの防火服とヘルメットを着用して、消防士さんになりきれるのだ。
息子を立たせておくと我先にと前に行こうとするので、仕方なく抱っこしている。
「ポンプ車! ポンプ車!」
待ちきれずにポンプ車コールを発する息子は、腕の中でぴょんぴょんと跳ねる。
2歳とはいえ14キロにもなる息子が動き回ると、私の腰もさすがに悲鳴を上げる。
「ちょっと颯麻、大人しくして!」
すると、並んでいた列に消防士さんがやってきて、息子に消防自動車のシールを渡してくれた。
「ポンプ車知ってるのか! すごいなぁ!」
「シール! やったー!」
息子はまたぴょんぴょん跳ねる。
「ありがとうございます……」
苦笑いしながら、目の前の消防士さんにお礼を告げた。
――のだけれど。
「あれ、……梓桜?」
「え?」
目が合う。
互いに逸らせずに、しばらく見つめ合う。
「梓桜、だよな?」
言いながら、彼は私をじっと見つめ続ける。
胸の中で、何かが疼いた。
「……大輝?」
「ん、そう。久しぶりだな!」
ニカッと笑う、お日さまみたいな爽やかな笑顔。
整った鼻筋に、ちょっとだけあどけない、右頬のえくぼ。
それは、もう13年も経つのに、あの頃と変わらない。
大好きだった、初めての彼氏だったその人――佐岡大輝――が、私の目の前にいた。
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