踏み出した一歩

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 仕事の休みだった10月最後の日曜日。  はたらくくるま好きな息子を連れて、図書館にやってきた。  というのも、保育園で息子はしきりに子供向けの『はたらくくるまずかん』をじっと見ていると聞いたからだ。  息子の“好き”の芽はつぶさずに、育ててあげたい。  ダメな人間かもしれないけれど、母親として、息子の気持ちは大事にしてあげたいと思う。  中高生の頃は、ここでよく勉強したななどと思い出す。  そんな私にとっては懐かしい図書館だが、息子は初めてだ。  ぴくりとも動かない息子を仕方なく抱き抱え、絵本のコーナーへを足を向けた。  日曜の午前中だからか、絵本コーナーに他に人はいない。  靴を脱がせてやると、息子はそこに置かれた本たちの方にそっと歩み寄ってゆく。  私も靴を脱いでいると、息子はすでに何かの本を床に広げて、その前に座りぺらぺらとページをめくっていた。 「ポンプ車、あったー!」  その大声に、思わず「しー!」と指を口の前で立て、慌てて息子の方へ駆け寄った。  息子が見ていたのは、案の定『はたらくくるまずかん』。  どこから見つけてきたのだろう。子供の“好き”は恐ろしい。  けれど、息子は相変わらず「これはー、化学車!」「これはー、救急車ー!」など知識を披露するように大声を出す。  この本だけ借りて、さっさと帰ろう。  そう思い、ずかんをパタンと閉じた。 「借りて帰ろうね」  けれど。 「ダメ! 帰る、ダメ! ダーメ―!」  息子は大声を出し、泣きながら、私が手にしたずかんを奪い取る。 「見るー! くるま、見るー!」  泣きながら、先ほどの体勢に持っていこうとする。  私が手を焼いている、最近の息子の行動。  俗にいう、イヤイヤ期というやつだろう。  ため息をこぼし、「お家に持って帰ってみようね」と提案するように言うも、息子はううんと首を横に振る。 「でも、図書館でうるさくしたらダメなの。お家なら、大きな声出してもいいから……」 「ダメー! ダメダメダメー!」  また出した大声に、暴れ出す息子。  私の中のイライラのゲージも、振り切れそうになる。 「もう、静かにしなさい!」  言っても仕方ないと分かっていても、つい声が出てしまう。  息子から本を奪い取り、息子の靴をさっと鞄にしまう。そのまま暴れる息子を抱えて、貸出カウンターへと向かった。
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