1641人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんなら、颯麻くんはうちにお泊りしてってもいいのよ?」
母が意味深な言い方をするから、私の顔は真っ赤になる。
「もう、そんな大丈夫だから! ほら、大輝、颯麻、帰ろう!」
慌てて言うと、大輝は「何かあったら駆け付けるんで、いつでも言ってくださいね!」と爽やかに言う。
けれど、颯麻は。
「ママー、だーちのお家?」
「そう、私たちは大輝のお家に住むの。ここは、じいじとばあばのお家だからね」
「ないよー。ぼく、新しいお家、ちゅきー」
そう言って、床に転がったまま動こうとしない。
「じゃあ、今日はここにお泊りする?」
母がニヤリと笑って、寝転んだ颯麻の隣にしゃがむ。
「え、いいよお母さん!」
「お泊り、するー!」
私の声は虚しく、颯麻は母に同調する。
「ママと大輝も帰るからね! いないからね!」
「いいよー、バイバーイ」
手を振られてしまった。悲しさと気まずさで固まっていると、立ち上がった母に肩を叩かれた。
「今日くらい甘えなさい。いつまでも、二人きりで過ごせなくなるわよ」
「お母さん、すぐそういうこと――」
すると、母は大輝の方を振り向いて。
「今まで頑張ってくれたお礼よ。大輝くん」
「ちょっと待っ――」
「ではお言葉に甘えて、梓桜さんと二人で過ごさせていただきます!」
私の声はまたも虚しく、大輝の元気な宣言にかき消されてしまった。
「お父さんも何か言ってよ!」
「いやぁ、大輝くんのことは信頼しているし、お母さんがいいって言うなら私は止める権利がないからなぁ」
父に振っても甲斐なし。
「ああー、もう!」
言った私の肩を、ぐっと大輝が抱き寄せる。
「帰ろうか、梓桜」
「うん。……颯麻のこと、よろしくお願いいたします」
言いながら、大輝と触れた部分がじんじんと熱い。
鼓動がどんどんと早くなる。
今夜は、大輝と二人きりだ。
最初のコメントを投稿しよう!