Prologue 運命の再会

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「そっか、梓桜(あずさ)、子供いたんだな! へー、いくつ?」  ニカッと口角を上げたまま話しかけてくる大輝(だいき)。  私は惹き込まれるように覗いてしまった彼の瞳から、はっと視線をそらせた。 「2歳なりたて」  言いながら、手元のシールに釘付けになっていた息子の頭を、ぐるりと大輝の方へ向ける。 「ほら、颯麻(そうま)。こんにちはって」  けれど、腕の中の息子はまた視線をシールに戻す。 「これはー、救急車! これはー、レスキュー車!」  指差しながら、夢中になってシールの写真に映る消防自動車たちの名前を言い続けている。 「すごいな、2歳でこの知識……」 「はたらくくるまが好きなんだよね」  息子に視線を向けたままそう言うと、息子の頭に大きな手が伸びてくる。  わしゃわしゃと息子の頭を撫でるのは、まだニコニコとしたままの大輝だ。 「そっかそっか。さすが颯麻くんだ!」  名前を呼ばれたことに、息子は恥ずかしそうにチラリと大輝を見る。  けれど、すぐにぷいっとそらせてしまった。  私の子だなぁ……。  心の中でため息をついた。 「お、颯麻くん?」  大輝はそんな私にお構いなしに、腕の中の息子の顔を覗き込む。 「もうすぐだからな、颯麻くん!」  大輝はそう言って、後ろに並んでいる子にシールを配りに行ってしまった。  変な感じがする。  それは、息子の名前を大輝が呼んだからなのか。  そもそも、私の父以外の男性が、息子の名前を呼んだのなんて初めてかもしれない。  この子の父親は、一度も息子の名前を呼ばなかった。  自分が父親だという自覚もなかったのかもしれない。  ――嫌なこと、思い出した。 「これはー、ポンプ車!」  私は再びシールに写る消防車両を指差す息子を見ながら、心の中で再びため息をもらした。
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