いらない父親、至らない母親

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 旦那は慰謝料と養育費の支払いを認めてはくれたけれど、慰謝料の支払いは先延ばしにされ、養育費も月々の支払いということになった。  離婚後、本当は一人暮らしをしたかった。  けれど、もちろんそんなお金が手元にあるわけもなく、私は実家に身を寄せた。 「颯麻(そうま)くん、お誕生日おめでとう!」  還暦後もまだ現役で建築士の仕事をしている父と、専業主婦の母。  そんな二人は、息子の2歳の誕生日を盛大にお祝いしてくれた。  まだ暑さの残る、9月半ばの日曜日の昼下がり。  母はノリノリで、自宅のリビングにたくさんの風船を膨らまして飾りつけをしてくれた。 「プレゼント、どうぞ」  渡されたプレゼントの袋を手に、ぽかんとする息子。  誕生日のお祝いは2回目。まだ、何が起きているのか理解していないらしい。 「今日はね、颯麻が産まれて2年の記念日なの。今日はお誕生日なんだよ」  私の言葉に、息子は私の顔をじっと見つめる。それから―― 「おちゃんじょー!」  1歳ごろから徐々に言葉を発し始めた息子は、一生懸命に『お誕生日』という言葉を紡ごうとしているらしい。 「そうよ、お誕生日」  母がふふっと笑って、颯麻の頭を撫でた。 「お母さん、本当にいいの?」  息子の抱えたプレゼントを指差し、私はそんな母に訊く。 「いいのよ、今まで何もしてあげられなかったからねえ、このくらい何てことないわ!」  母の気遣いともとれる言葉に、余計に罪悪感が募る。  ダメな人間のまま母親になってしまったのだから、仕方ない。  甘えているようで申し訳なくて、でも今の私にはそれしかできなくて。 「プレゼント、開けてみようか」  私の問いにコクリと頷いた息子の手から袋をそっととり、その口を開けてやる。  中から出てきたのは、息子の大好きな“はたらくくるま”のミニカーだった。 「ポンプ車! 救急車!」  まるで宝物のようにそれらをぎゅっと胸に抱いた息子に、私はこんなこともしてあげられなかったのかと罪悪感が募る。  同時に、その様子をニコニコ眺める母とスマホのカメラを息子に向ける父の優しさに、涙が溢れてしまった。
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