踏み出した一歩

1/4
前へ
/129ページ
次へ

踏み出した一歩

 引越してきてからすぐに、私は市役所に相談に行った。  保育園の空きが1枠あったので、さっそく入園を決めた。  10月からの入園に向け、就職活動をすると、運よく隣町の事業所の事務員としての就職が決まった。  これから頑張らないと。  一人でも生きていけるように。  新たな想いを新たな地で誓い、ようやく一歩踏み出せたと安堵する。  けれど、まだまだだ。  今はまだ、親のすねをかじって生きている、自立のできていない大人と同じ。  何もできない、魅力もない、ダメ人間からの脱却は、まだまだ遠い先のような気もしてしまう。  ふう、とため息を意気込みに無理やり変えて、私は入園準備を進めた。  *  それから、あっという間に1か月が過ぎた。  慣らし保育も順調に進み、私も仕事に慣れてきた。  忙しい毎日の中、家に帰ると母がご飯を作って待っていてくれる。  本当は、家事も全部自分でやるべき。  そう思うけれど、今は後ろ向きになりたくなくて、甘えている事実を受け入れている。  できることから、少しずつ着実に。 「いいのよ、いつまでもここにいてくれて」  なんて母は言うけれど、お金がたまったら、ここを出るつもりだ。  ちゃんと一人でも、息子を抱えて生きていけるように。  それは忘れてはいけない、私の人間としての、母としての誓いだ。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1642人が本棚に入れています
本棚に追加