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「春斗は運転できるようになったんだからさ、いつか木塚先生を車に乗っけてそのままラブホにでも行ったらいいじゃん」
「……は?」
「それで押し倒して自分の物にしちゃえば」
「ばれたら葵さんが犯罪者になるだろ。それに、……そんな簡単じゃないよ」
それはそうだ。そんなに簡単であるはずがない。
青色がますます暗く濃くなっていき、前を走る車の赤いテールランプが目立つようになってきた。
「伶央、このあとなんだけど、帰りに写真を見に寄らせてもらってもいいかなあ」
寄る辺ない、切なさの混ざる声。伶央は敢えて運転席を見ない。
昼間にラジオで聴いた女性ボーカルが脳裏に蘇る。「もしもあなたに出会わずにいたら」と歌っていた。そして反復フレーズの「I need you」。
「期末テスト期間中だって覚えてる?」
笑みを含んでそう応える。
「うん、でも」
「嘘だよ、いいよ」
やっぱり本当は会いたかったくせに、素直じゃない奴。
窓越しに伝わる走行音に紛れた、春斗の「ありがとう」と呟く声を、伶央は沁みる目を閉じて聞いた。
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