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 教室の廊下側、後ろから二番目の席に彼はいた。  転校初日、教室の黒板の前で自己紹介をした時から、東瀬(あずせ)伶央(れお)は彼のその雰囲気に惹きつけられていた。  クラスの男女比はほぼ半分。進学校だけあって荒れた様子は皆無、私語は止まらないものの小鳥のさえずりが耳を撫でる程度だ。転入生の登場に朝の教室がどことなく浮き立つ中、彼の周囲だけ空気が静謐で清浄で、自分がわだかまっている世界とは次元の違う場所に居ると感じた。  その日から毎日、気が付くとつい目で追ってしまう。  いつ見ても、常に彼は一人だった。  孤立しているというわけではなく、ただ自然体で一人そこにいる。熱量を感じさせない佇まいは優雅ですらあった。たいてい頬杖をつき本を読んでいて、誰かと談笑している姿など一度も見たことが無い。  それとなくクラスメートに確認してみると、彼、木塚(きづか)春斗(はると)は「そういう人」とのことだった。人当たりは悪くないし険悪でもない、ただし誰かとつるむのは好きではないらしい。曰く、一年生の時から彼は孤高を通している。  へえ、と思った。特定の友達を作らずに三年間。淋しくはないのだろうか。  対して伶央は、親の仕事の都合で幼稚園の頃から転校三昧。すぐに離れてしまうと分かっているからこそ、限りある学校生活をつつがなく楽しく過ごせるように、一緒にいられる数人を見つけてその場限りの友として来た。教室を見渡して、目立っている男子のグループに混ざれば概ね安泰だった。  長続きさせるつもりのない「友達ごっこ」は、気楽なものだ。その時さえ過ごせればいいのだから。  ずっとそう思って来たのに、今更ながらひどく揺れているのは、前の学校で失敗したためだった。
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