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「木塚、お昼一緒にいい?」  翌日の昼休み、春斗がいつものように自席で弁当を広げようとしているところへ、伶央は声を掛けた。  そのことに、教室中の衆目が集まる。一瞬静まりかえり、その後すぐにざわめきが戻った。  春斗の返事を待たず、伶央は春斗の前の席の椅子に勝手に腰掛け、朝駅前で買って来た惣菜パンを置いた。  周囲からは好奇の視線、正面からは無言の抗議をひしひしと感じつつ、すべてをシャットダウンして伶央はパンのビニールをペリペリ剥がす。 「俺はまだ返事をしてない」 「昨日の続きしようよ。知りたいことまだあるでしょ?」 「……別に。元気そうならいい」  素知らぬ顔で弁当箱の蓋を開ける。  卵焼き、ウインナー、プチトマト、ブロッコリー、小さく切ったフライが詰められているのを眺め、春斗がご飯にふりかけをかけるのを見守っていると、きろっと睨まれた。 「見るなよ」 「お弁当いいな、美味しそう」  春斗の邪険な態度をまったく意に介さず、にこにこ笑ってみる。  常であれば伶央はここまで入り込まない。友達はその場限りの関係で充分だから、相手の反応次第で一歩退き、深追いはしない。  だが、春斗だけは別だ。前の日廊下で一人残された後も、自転車にまたがり帰宅する道すがらも、自室で勉強しているときも、彼のことが気になって仕方が無かった。  今までどおり傍観者に戻ることも出来たが、距離を詰めたいという願望が勝った。 「ほんと? でもさ、もう少し知りたくない? 俺もそこまで先生と親しくしてたわけじゃないけど」  一晩考えたのだ。普段クールな春斗が木塚葵のことになると目の色を変える。傍目からも分かる目の輝きと、その奥に秘めるどろりとした強い感情。  おそらく触れられたくないことなのは火を見るより明らかだが、伶央が付け入る隙はここしかない。  叩けよ、さらば開かれん。 「なにが目的?」 「仲良くなりたい」 「なんで」  無表情の仮面がはずれた。  伶央は、戸惑う表情を晒す目の前の優等生に、最上級の笑顔を向けた。 「ここで言ってもいいの?」  素知らぬ風を決め込みながら、男子も女子もクラス全員が二人の会話に注目している。そんな中で込み入った話を、春斗が許容するはずがなかった。 「……わかった。じゃあ放課後」  入学してからずっと、孤高を保ってきた春斗の態度の軟化に、クラスメート達の驚嘆のため息が密やかにこだまする。  そんな中、春斗は居心地が悪そうに少しだけ顔をしかめた。
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