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 春斗の瞳はまるで挑みかからんばかりの光を湛え、伶央を捉えた。その(くら)い美しさについ見とれたが、飲み込まれるすんでのところで理性を取り戻し、どうにか口角を上げ余裕ぶることで耐えた。  そんな伶央の葛藤など意にも介さず、春斗は口を開く。 「なにと引き換え?」  本当は腹立たしく思っているだろうに、黙殺することも一蹴することもせず、ひとまず交渉のテーブルに着こうとする。  思っていた通りの行動に、伶央は笑い出したい気持ちを必死に抑えた。これは会心の笑みであると同時に、ほんの一歩近付いているだけの現状から二度と這い上がれない谷底まで突き落とされることを回避できた、安堵の笑いでもあった。  葵のことになると、春斗は感情が露わになる。特に、瞳の大きな眼がすべてを物語る。名を聞くだけで一瞬にして潤み、光を湛える様子がどれほど色気があるか、本人はきっと気付いていないだろう。 (先生のことがどれだけ好きなんだよ)  ちり、と胸のどこかが焼けて痛んだが、見ないふりを決め込んだ。 「その写真、どうしたら見せてくれる?」 「そんな訊き方して、いいの? 俺が何を言っても受け入れてくれるみたいに聞こえるんだけど」 「……まあ、できることであれば」  この段階で、やっと伶央の表情に気が付いた春斗は警戒の色を強めた。 「それとも写真って、嘘?」 「嘘じゃない。家にあるよ」  まったくもって自分のことに無頓着過ぎる、と伶央は口元を歪めた。警戒するのは写真が偽りかどうかということだけなのか。  それでもこうして葵への執着心を見せるくらいには心を開いていると解釈して、気をよくする自分も大概だった。 「ここからなら自転車で十分かからない。家に見に来ない?」  にこっと笑ってみせれば、渋々といった体ではあったが頷いた。  簡単過ぎる。そこら辺の小学生よりも危機感が無い。 「後ろ乗りなよ」 「二人乗りは禁止だ」 「大丈夫。見つからなきゃいいんだよ」  二人は元来た道を戻り、警邏するパトカーから逃れるように、裏道へと姿を消した。
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