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 まんまと自分の家に春斗を連れ込んだ伶央は、ダイニングキッチンに通し、飲み物とお菓子でもてなした。駐車場付きの二LDKの賃貸マンションは築年数十年程、入居する際にハウスクリーニングを入れたので、比較的綺麗で使いやすい。  よその家に上がることが珍しいと、最初は居心地悪そうにしていた春斗だったが、東瀬家が父子家庭で当分親が帰宅しないと知って気が緩んだのか、ポテトチップスに手を伸ばすようになった。 「うちの母親はね、あまりに引っ越しが多くて、ほとほと厭になったみたい。近所づきあいとか友達とか、築いた人間関係が全部なくなって、見知らぬ土地でまた一からだからね」  五年前に離婚して家を出た母親のことを、伶央はそう述懐した。 「完璧主義なんだ。今思うと。だから疲れちゃったんだ」  中学一年生の時だった。父と母、どちらの家に住むか選択を迫られ、伶央は迷わず父を選んだ。ただでさえ転勤族で引っ越し三昧なのに、このうえ妻子に出て行かれたら父の人生があまりに憐れに思えたからだ。 「でも良かったと思うよ。母さんは今は大阪にいるんだけど、めちゃくちゃ元気で楽しそうだし、俺もすごく鍛えられた。料理も掃除も家のこと一通りできるようになったしね。転校先でも、ばんばん人に声を掛けまくって友達つくればまあどうにかなる。そうしないと、一人っ子だから話す相手がいなくなるんだ」 「俺も兄弟いないけど」 「一人になっちゃうじゃん。自分から動かないと」 「うん、でも、別に一人でいい」  ぽしっと前歯でポテトチップスをかじる春斗に、「それそれ」と指摘する。 「ずっとそれが気になってる。なんで一人で平気なの?」 「逆に、なんで平気じゃないの? 楽だよ一人の方が」 「楽? なにが楽?」  前のめりになって尋ねたいところだったが、今のこの流れを切らさないように、麦茶を飲みながら敢えてあっさり質問した。  春斗が高校に入学してからずっと一人で過ごしていると知った時から気になっていた。どうして一人きりを続けていられるのか。
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