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表情が硬く昏い。伶央がしていることは、春斗にとってただの嫌がらせでしか無いのだと思い知らされる。確かにそう思われても仕方の無い状況だった。だけど、そうではないことを、伶央は知って欲しいと思った。
それなのに。
「探らなくても、ばれてる」
春斗は一瞬目を丸くし、すぐにすっと視線を落とした。
伶央は自らが発した言葉の鋭さ、冷たさに自分でも驚いたが撤回せず、それに追い打ちをかけるように続けた。
「春斗が誰を好きかなんて、ダダ漏れだよ。じゃなきゃ、あんな誘い方しないし、春斗だって俺の誘いに乗ってここに来ないでしょ」
いやな言い方だった。
もっと適した手立てがある。微笑んで謝って優しい言葉を掛ければいい。普段、習い性のように大勢の人達にしてきたことだ。
だが、口を突いて出たのは意地悪と言っていい言葉の数々だった。優しくしたいのに、ものすごく胸の中がもやもやして、いつもどおりに出来なかった。
悔しかったのだ。春斗が伶央のことを、過去に彼を傷つけたり逆撫でしたりした人達と同列に扱ったことが。
そして、そんなにも長い間友達をつくらず一人で居ることを選択させるに至った、特別な人の存在が。
「……気持ち悪いって思うだろ」
下方に目線をぼんやりと留めながら、春斗がぽつりと言う。
「だから一人で居たんだ。知られたくないし、ばらされたくないから」
可哀相なくらい青ざめた春斗をまじまじと見つめるうち、膨れ上がる感情を抑えられなくなった。
伶央は持っていたグラスをテーブルの上に置きざま、音を立てて椅子から立ち上がり、斜め前に座っている春斗の傍らに寄った。何事かと見上げてくる春斗の眼を見つめ、頬に手を当てる。
少しかがめばキスできる距離だった。
そう思った途端に心臓の音がドキドキととてつもない勢いで鳴り始め、顔が熱くなり、緊張で首から下の体温が下がったような気がした。
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