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 高校三年の五月というのは、転校するには変わった時期だ。学校によっては、受験のことを鑑みて、三年生の転入を受け入れないところもあるらしい。それくらい微妙な時節であり、実際、家族に同行せずそのまま都内に居残ることを、誰も彼もが、両親すらも、伶央に勧めた。  前の学校に居づらくなってしまったのは、(ひとえ)に自分のせいだった。常ならば波風が立たないよう、当たらず障らずをモットーに過ごすところを、柄にも無く一人の生徒を庇った。  その時から、潮が引くように周囲から人が居なくなり、高校生と思えない幼稚な嫌がらせを地味に受け始めた。三年生に進級する際のクラス替えに期待を掛けていたが、無駄だった。  敵意むき出しで突っかかってくるのならまだ対処のしようもあるが、ひっそり物が盗まれたり壊されたり、いつの間にか自分の成績表や試験の答案が教室に張り出されたり、とにかく陰湿極まりなかった。主犯格は誰なのか見当は付いていても、現場を見たわけでは無いので問いただすこともできない。  こうした事態に陥ったことで、自分が案外打たれ弱いことを発見するのと同時に、こんなことで思い悩んでいるのを誰にも知られたくないという、つまらない自尊心を目の当たりにして、つくづく自己嫌悪に苛まれた。  馬鹿馬鹿しい、小学生か、と内心では吐き捨てながら、そのことを口に出さずに親の転勤にかこつけて、これ幸いと脱出したことも自身の傷になった。まさかこの歳でこんな思いをすることになるとは思わなかった。  併せて、これまで上手くやってきたと自負していた「友達ごっこ」も、ただ虚しいばかりでまったく意義を見出せず、今度の学校にはどういうスタンスで臨むか決めかねていたところだった。  そこに来て、孤高を貫く同級生の存在は、ただ端麗だという印象だけでなく、伶央にとってとても眩しく映ったのだ。
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