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最初は眺めているだけでよかった。
実際、伶央の席は一番後ろであり、隣の列の一つ前に座る春斗を観察するのには最適なポジションだった。
春斗の成績は優秀だと他のクラスメートから聞いてはいたが、三年生だというのにどの授業も手を抜かずにきちんと受けていて、たとえば授業中に問題集などの内職をする様子もなかった。
授業態度が真面目であるほか、寡黙で、感情をあまり表に出すことがなく、好きとか嫌いとか、そういった感覚すら無縁のように思えた。
友達も作らないなら恋人も作らないのだろうし、そもそも他人に興味がないのかもしれない。
分かったことは、部活には入っていないこと、(尤も入っていたとしても時期的にそろそろ引退なのだが) 塾にも通っていないこと、校内でよく行く場所は教室のほか、中庭のベンチと図書室くらいだった。
外側から得られるその程度の情報で次第に満足できなくなった伶央は、少しでも春斗と話すきっかけを作ろうと、忘れてもいないボールペンを借りたり、落とした消しゴムを拾ったり、書き逃したと称して板書を写させてもらったりしたが、思うようには進展しなかった。
だが、ある日、伶央は天に感謝するに至る出来事に遭遇する。
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