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「先生が居てくれてよかったよ。それでまた伊織が怪我でもさせられてたら、俺は悔やんでも悔やみきれない」
伊織は「悔しいけどあいつらを見ると足が竦むんだ」と言っていた。伶央も調子が悪い時は、いまだに彼らの夢を見るのでよく分かる。自分の獲物だと思う相手を容赦なく痛めつけ、蔑んで酷薄に口を歪めて笑う彼らを前にすると、認めたくないが伶央はまるで自身が被食側に回ったかのように、恐怖心に囚われてしまう。
「そうなんだ。ひどいことにならなくて良かった。……葵さんは、ちゃんと先生やってるんだね」
ぽつりと零した春斗の声音は安堵の色を多く含み、とても穏やかなものであったのに、伶央はそれだけではないものを感じた。
伊織から聞いたエピソードを春斗に聞かせたのは、まさに教師としての葵の様子を、写真だけでなく血肉を持った現実として伝えたかったからで、目的を達したはずなのに心のどこかがわななくように軋んだ。
言うまでもなく理由は分かっている。春斗が好きなのは、最初から葵一人だけだ。伶央や誰も彼もが束になってかかっても絶対に敵わない。ましてや伶央が思いを告げたとしても何も変わらない。だからまた飲み込む。友達として近くに居られることが最善だからだ。
一つを飲み込んだら一つを吐き出す、というわけでもないのに、伶央はつい、余計なことを言った。
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