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 六月のこと、転入してから一ヶ月が経ち、そのアフターケアも兼ねてか担任の教師から放課後呼び出しを受けた。進路相談も含めての面談は思っていたよりも時間がかかり、面談を終えて部屋を出た時には、窓から差し込む日の光も傾いてぼんやりと翳っていた。 ――学校は慣れたかな。うちはほぼ全員が進学希望だから、特に三年生の一年間はみんな受験に向けて邁進するけど、貴重な高校生活を大事にして欲しいと思っている。 ――東瀬は成績は申し分ないし、志望校も今の調子ならまず射程圏内と言えるよ。 ――でも、学校推薦は、……正直、難しい。転入の時期が二年生の一学期までだったら良かったんだけど、東瀬の場合は転入してきたばかりだから、申し訳ないけれど対象外になってしまう。  学校推薦を狙っていたわけではなかったし、望んで転校してきたのだから仕方が無いとはいえ、やはり良い気持ちはしなかった。そもそも自分の転入のせいで、教師に面談の手間も掛けさせてしまっている。  面談で言われたことを思い出し、なんとなく塞いでしまう自分を諫めながら薄暗い廊下を昇降口へと歩いていたのだが、不意に思い立って踵を返した。  帰り際に一目春斗の姿を見られれば少しは気分が浮上するように思えたからだ。さすがにもう居ないかも知れないが、念のために図書室を覗いてから帰ることにした。  碌に相手のことも知らないのにおかしなものだ。そもそも朝からずっと同じ教室に居たというのに。偶像崇拝? 目の保養? 条件反射? それとも依存? この感情にぴったりの名前はなんだろう。
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