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図書室の電気は消えていたが、ドアに手を掛けてみると施錠されていなかった。
不用心だなと思いながらもひとけのない部屋に足を踏み入れる。音を立てないようにそろそろと歩きながら、これではまるで自分が侵入者のようだと可笑しくなった。
「……あ」
背の高い書架を抜け、閲覧席を見渡すと奧に一人、こちら側に背中を向けて座る男子生徒が居た。
離れた所からでも背恰好で春斗だと分かる辺り、重症だという自覚はある。
伶央は少しだけ逡巡したが、すぐに意を決して春斗の方へ足を向けた。
図書室は廊下や昇降口と比べれば、窓の大きさや向きのために多少は明るいが、それでも夕方のこの時間、電気を点けたほうがいいくらいには薄暗いし、それよりももう下校する時刻だ。本当は本を読む姿を見られれば充分だったはずが、一緒に帰ろうと誘ってみたくなった。
我ながら厚かましいが、チャンスは逃したくない。
「木塚」
ほかに人が居ないのをいいことに遠くから声を掛けたが反応は無く、近付いてその理由を知った。
「え、寝てんの?」
春斗はいつものように頬杖をついた体勢で、器用に居眠りをしていた。
伶央は起こさないようにそっと隣の席の椅子を引き、腰を下ろして春斗の寝顔に見入った。
睫毛が頬に蒼い影を落とし、絵画のように美しい。
適度に整った造作と、人を寄せ付けない雰囲気が、彼の魅力なのだと思う。
誰にも心を許さない春斗が、いつか自分を見る日は来るのだろうか。
斜め後ろから眺めることが多いので、こんなに近くで、しかもまともな角度から観察できて、何かの御褒美のようだった。
眠っているから見放題でもあり、このままずっと見ていたかったが、ますます部屋の中が暗くなってきた。
そのとき伶央はふと、机の上に置かれた本に視線を留めた。
勉強をしているか、読書をしているかのどちらかだと思い込んで気にしていなかったが、春斗の前にあるのはどういうわけか卒業アルバムだった。
頬杖をついていない方の腕が、年季の入った卒業アルバムの三年五組のページを開いた状態で押さえていた。
見開きの左側にクラスの集合写真、右側に個人の顔写真が載っている。好きな芸能人の昔の写真でも載っているのか、と意外に思いながら一人ずつ追って行くと、知っている名前に目がとまった。
「……え、木塚、葵?」
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