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つい声に出してしまう。写真の葵は高校生なのだから当たり前だが、面影はあるものの伶央の知っている彼とは雰囲気が異なっていた。髪型も少し長めの外はねパーマで、時代を感じる。
「へえ、若っ! 可愛っ!」
同じ詰め襟なのに、クラスメートの中でも格段に垢抜けて見えるのは、被写体としての写真の撮られ方をよく知っているからか。うっすら微笑んでいる表情も自然で、当時はモテただろうことが想像に難くない。
「知らなかった。ここの卒業生だったのか」
「……なんで?」
突然至近から声がして、思わず伶央は「うわあっ」と声を上げ、仰け反った。
眠っていたはずの春斗がいつの間にか目を覚ましていて、伶央をじっと見つめていた。
決して冷たくはないが一定の距離感を保っている、いつもの春斗の顔ではなかった。
いま初めて、伶央は春斗の視界に入ったのだ、と解った。黒光りする大きな瞳にしっかりと捕捉され、途端に緊張で顔が強ばるのを感じた。
これまで一方的に憧れていた春斗に見つめられ、声を発することが出来ず、目を逸らすことも出来ず、吸い込まれるようにただ見つめ返すばかり。そのうち心臓がおかしいほどばくばく鳴り始め、耳鳴りまで加わって、このまま自分は死ぬのかも、と気が遠くなった。
だが春斗は茫然自失の伶央に頓着する様子もなく、正面からまっすぐに強い視線を向けたまま、再度尋ねてくるのだった。
その熱を帯びた瞳は、これまで伶央が感じていた彼の纏う空気とは一転してただ熱く、普段であれば相対する際に見せる壁も距離も消え去っていた。
「葵さんのこと知ってるの? なんで?」
葵さん。
そのただならない甘ったるい響きは訳もなく伶央の胸をざわつかせ、同時に頬を紅潮させた。
超然とさえ見えていた春斗をきちんと覆っていた鎧が無体に剥がれ、なまめかしい肉が白日の下に晒されたようで、後ろ暗い気分にさえなった。
「……ごめん」
ぐいっと迫られ、緊迫感に耐えられず、つい謝ってしまったのは、寝顔を飽くまで眺めたことや、読んでいた本まで盗み見てしまったことよりも、それ以上に見てはならない扉の向こうを覗いてしまった罪悪感を感じたからだった。
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