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「なにがすごいの。さっきから、全然答えてくれてないんだけど、俺の質問きこえてる?」
「……え?」
「同じこと三回訊いてる。わざと答えないの? 東瀬ってそういう人?」
あの鉄面皮の木塚春斗が、むっとしている?
この珍しい状況に、伶央の胸は再び高鳴り始めた。
苛々すると春斗の瞳は一段と光を増すのだと、うっとり眺めていたらとうとう彼の足が止まった。
怒りできらりと光る眼が伶央を睨みつける。
「俺のこと、馬鹿にしてる?」
「まさか、してないよ」
「なら答えてよ」
「交換条件」
同じクラスになってから一ヶ月、春斗が感情を露わにするのを拝むのが初めてで、テンションの上がった伶央はもっと異なる表情を見たいと欲を掻いた。
「交換、条件?」
「俺が木塚の質問に答えるから、木塚も俺の質問に答えて」
呆気にとられて眉をひそめ、それならもういいよ、とむくれる表情を期待した。そうしたら慌てて謝って機嫌を取り、すぐに明かそうと思っていた。
「わかった。質問ってなに」
予想に反して返ってきた快諾の言葉に、伶央は自分の耳を疑った。
「いいの?」
「何が? 自分で言ったんでしょ、交換条件って」
「そうだけど」
「東瀬、変わってる」
その言葉をそっくり返したい。
だが、それよりも、気が変わる前に、と焦って口を開いた。
「じゃ、じゃあ、質問です。今はまっていることはなんですか」
「……なにそれ」
「木塚が何に興味があるのか知りたい」
春斗は不可解だと言うように首を傾げ、ややあって「教習所」と答えた。
「教習所? って、自動車の?」
「……うん」
「通いたいってこと?」
「いや、いま通ってる」
目を丸くする伶央とは対照的に、春斗は厭そうに一瞬目を眇めた。そしてすぐにいつもの、余計な物をそぎ落とした顔に戻る。
「十八になったし、早く免許取りたいから」
「受験生じゃん。通うなら塾じゃないの」
「塾は合わないし、勉強は待ち時間や寝る前に出来る。寧ろ早い時期に取得した方が受験勉強の追い込みに被らない」
「へええ」
成績のいい者は優先順位の付け方が独特だ。
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