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おれのばあちゃんはすごいんだ!
ばあちゃんは魔法のポケットを持っていて
おれの欲しいモノを何でも出してくれるんだ!
まるでテレビに出てくる雪だるまみたいな青いロボットのようだ!
いや、ちがうな、ばあちゃんはおれの欲しいモノじゃなく おれに必要なモノを出してくれる
おれが転んでひざをすりむけば
「大丈夫かい?
はい、ばんそうこう」
とポケットからさしだしてくれた
おれがバスで車酔いになれば
「アメちゃんいるかい?」
とポケットからたくさんのアメ玉を出してくれた
おれはばあちゃんが大好きだ!
ばあちゃんのウチで遊んだ日
おれはばあちゃんに手を引かれて自分のウチに帰った
「あれ、ウチの鍵がない!どうしよう!ばあちゃん!」
「大丈夫だよ、鍵がなくてもばあちゃんが開けてあげよう」
とおれの頭を優しく撫でてくれた
「ばあちゃん!そのドライバーみたいなの何?」
ばあちゃんはポケットから金属の太い針のようなモノを数本取り出していた。
先の方は曲がっていた。
「ばあちゃんの7つ道具だよ」
ばあちゃんはニコッリ笑って、鍵穴に金属の何かを入れてカチャカチャ動かした
ガチャリ
「ばあちゃん、すげぇ!!ばあちゃんは魔法使いみたいだ!」
ばあちゃんは、うふふとただ笑っていた。
おれのウチの鍵は通学カバンに入っていた。
遊んだ日は違うカバンで行ったので入れ忘れていたようだ。
別の日
「ばあちゃん、どうしよう!ウチ離婚するかもしれない!父ちゃんも母ちゃんもすげぇケンカして、その後は二人ともずっーーと黙ったまま生活してんの!」
おれは悲しくなって、ばあちゃんに抱きしめながら大泣きした
「大丈夫大丈夫。ばあちゃんが何とかしてあげようね〜」
ばあちゃんがポケットを探って取り出したモノをおれに見せた。
「ばあちゃんからお願いがあるんだ。
コレをお父さんからだと言ってお母さんに渡してくれるかい?」
「コレなぁに?」
「どこかの馬鹿が貢いだモノの一つだよ。
でも失くしても、まだたんまり持っていたからね。おひとつ頂戴したんだ。
でも、お母さんは大事にしてくれるはずさ!」
ソレはお高そうな指輪だった。
キラキラ輝く宝石がついた指輪。
指輪の入った小さな箱の中には何かメッセージが入っているようだったけど、それはお母さんが読むモノだからね、とばあちゃんに隠されてしまった。
「あと、コレはお父さんに渡しておくれ」
茶封筒には写真が10枚ほど入っていた。
「誰これ?」
知らない女の人が知らない男の人と写っていた。
仲が良さそうだった。
知らない女の人は全部の写真に写っているけど、男の人は全員違う。
「さぁ?あんたも私も知らない人たちさ」
おばあちゃんからお願いされたモノを渡した。
母ちゃんは涙ぐみ、
父ちゃんは苦い薬を飲んだような顔をしていた。
これ知ってる、こういうのを「顔色が悪い」って言うんだ。
その日から、また家族が仲良くなった気がする。
ばあちゃんはやっぱり魔法使いだ!
「私は魔法使いなんて大層なもんじゃないよ。
むしろ何にも持ってないから、持っている人達からほんの少し貰っているんだ。」
ーーーーーー
少年から青年へと成長した彼の手には、本当の祖父母の写真があった。
今まで「ばあちゃん」と呼んでいた相手は自分の実の祖母ではなかった。
彼はその写真をグシャグシャに丸めて、ジーンズの後ろのポケットに入れた。
「ばあちゃん!おれ ばあちゃん作ったおはぎ食べたい!」
彼は、家の奥に声をかけた。
終わり
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