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「それではこれよりプロットやネームの作成方法を伝授する!」
「押忍!」私は気合いの入った返事をする。今のは運動部もビビることうけあいだ。
「うん……まぁ、普通でいいよ」海流の対応は素気ない。
「ああ、うん。ごめんごめん」結局、作業場として選んだのは私の部屋だ。部長や部員には集中したいので部屋で創作することで説明した。創作パートナーを失った私に物言いする人はいないのですんなり要求は通った。
男子と部屋で二人きりなどというシチュエーションは少女マンガなら新展開のフラグ、コミケ特産の薄い本なら通常運転というかんじだが、海流にはその気がないらしいし、ピッピもいるのでそんなことにはならないだろう。
海流が修得したプロットとネームの作成方法の伝授には数日を要した。理由は知識付与だけにはとどまらず、私が一からできることが重要だったからだ。それと同時に海流が言うところの「ノンフィクションよりのフィクション」の創作にかかる。
タイトルは「美空の青い海」である。なんとも思わせぶりなタイトルだがこれだけは海流が変更を認めなかった。彼の遺作ともなるわけだし、私は反対しない。
作業は順調に進んだ。作業の終盤になってくると当然のことながら作画がメインとなってくるため、自然と私が主導権を握り、海流はそのサポートとなる。
描いていて思うのだが―――この作中人物である男子アオイカイルは明らかに同じ作中人物のアオキミソラのことが好きなようだ。まぁ、そういう設定だし。
しかし、これって―――海流の本当の気持ちではないのか?
「あのさ―――」言いかけて止めた。
海流がフィクションだと言うのであればそれでいいだろう。私たちの関係はあくまで創作パートナーだ。それで上手くやってきた。
その関係を崩す必要はない。それに創作を続けるために海流はピッピの力を借りてここにいるのだから。
「え? 何?」
「いや―――あのさ、ここの場面なんだけどね」なんとか話題を振ることによりごまかす。ちょっとだけ心が痛い気がする。
こうして私たち「碧野海空」の最初にして最後の作品「美空と青い海」が完成した。
ストーリーは言うまでもなく、私たち二人のこれまでのストーリー。そして近い将来、海流の身に起こるであろうこと―――。
ただ一つだけ違うのは―――海流が私に恋をしていること。
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